「人づきあいがラクになる本」 斎藤茂太・斎藤由香
P16 「知足の者は貧しといえども富めり、不知足の者は富めりといえども貧し」
P29 でも、こんな時代だからこそ、流れに抗って、自分から積極的に損な役割を引き受けることをお勧めします。仕事でもプライベートでも、人がやりたがらないこと、これまで敬遠していたことに、「私、やります!」と手を挙げてみてください。それも、やるからには嫌々やるのではなく、とことん楽しんでやろうという気構えで取り組むんです。そうすれば必ず新しい発見があります。人間的成長につながり、仕事や人生のプラスになります。おまけに、周囲の人からも感謝される。
P29 …人生には無駄なことも損なこともありません。すべての経験が、あなたの中に積み重なっていくんです。
P32 …小さな失敗をしただけで、自分の存在すべてにバッテンがついたように感じてしまい、できるだけ失敗を避けようとする。
P41 …友だちの放ったとげとげしいひと言を聞いて、カッとなったり落ち込んだりしても、「彼女は今、精神的に余裕がないのかも」などと分析することができるようになる。その結果、必要以上に人を傷つけたり、傷つけられたりすることが少なくなります。
P59 …~各企業にはたくさんのダメ上司がいる。
P62-63 …あなたが将来、部下を持ったときの悪い見本として生かすこともできる。
P64 たとえ相手が社内の権力者だったとしても、あなたの心まで操作することはできません。そしてまた、どんなしつこい上司だろうと、家まで追いかけてくるわけじゃない。「こんなやつに振り回されて、大事な人生をつまらなくさせてたまるか」という気概を、いつも心の真ん中に抱きしめていてください。
P66-67 あがり症の人の人に共通している性格傾向って、なんだと思いますか? それはね、自信がない一方でプライドが高く、「本当の自分以上の人間に見られたい」という願望が強いこと。必然的に、人の目を過剰に意識してしまう。失敗して評価が下がることを必要以上に恐れる。
P67 トップセールスマンには口下手な人が多いという話を聞いたことがあるでしょう? 立て板に水で流ちょうに話す人は警戒され、訥弁でも一生懸命に話せば誠実そうだと信頼される。
P68 …会議でうまく話せなくたって、プレゼンに失敗したって、別に人生が終わるわけじゃない。
P72 断るのが苦手な人は、「無理をして引き受ければ相手は自分に感謝するはずだ」「いい人間関係を保てる」と考えているようだけれど、本当にそうでしょうか。どんな頼みも断らない人が、周囲から「頼りになる」と信頼され尊敬されることは、まずありません。
P73 即座に断らず、話を最後まで聞き、まず謝ってから、できない理由を説明します。
P87 …「完璧すぎて息がつまる」「『私はあんなふうにはなれない』と自分のダメさ加減を思い知らされて落ち込む」
P92 …自分のことは「こうあるべき」と厳しく律しながら、他人の欠点や失敗を見過ごせる人なんて、現実にはほとんど存在しません。
P96 畑違いの仕事であれば、慣れるまでは確かに大変です。思うようにいかなくてプライドが傷つくこともあるでしょう。なじみのない人間関係の中に飛び込むわけだから、最初のうちは気苦労が絶えないとも思う。しかし、そこには新たな出会いがあります。人との出会いだけでなく、これまでとは異なる仕事をすることで変化し成長していく新しい自分との出会いがね。
P97 配転が嫌々ながら始めた仕事のほうが、かつての仕事より合っていたというのも、よく聞く話です。
P106-107 大事なのは、相手をギャフンと言わせることでも、謝らせることでも、恥をかかせることでもありません。自分の気持ちを伝えて反省をうながし、二度と同じことをされないようにすることです。「ひどいじゃないですか!」「人としてどうかと思います」などと相手を責めたり、皮肉を言ったり、「みんなも、あなたのことをこう言っている」などと他人を引き合いに出して攻撃するのは、相手の敵対心をかき立ててしまうので逆効果。彼や彼女の言動によって自分がどんな気持ちになったかを淡々と説明し、「だから、こうして欲しい」「こういうことはもう言わないでください」と明確な言葉にして提案する、それだけに徹しましょう。
「こんなこともあった、あんなこともあった」と昔の話まで持ち出すのも禁物です。
P108 そして最後には、「気持ちを伝えられてよかったです。お忙しい中、ありがとうございました」とお礼を言うようにしましょう。
P110 政府の発表では景気拡大が続いているというけれど、それは一部の金持ちの話で、庶民の暮らしはシビアになるばかり、正社員減らしが進み、大企業でさえ倒産する時代、…
P110 一九九八年に年間の自殺者が三万人を突破して以来、八年間ずっと三万人台。二〇〇五年には、十六分にひとりが日本のどこかで自ら命を絶っています。その三分の一が六十代ですが、ここ数年は四十代、五十代の自殺が急増している。おそらく、リストラや倒産などが引き金になった人も多いでしょう。
P111 しかし、人生に絶望する前に、ちょっと冷静になって考えてみてください。あなたが失ったものは、二度と取り戻すことができないものですか。いや、そもそも、それがなければ本当に生きていけないほど大切なものなのでしょうか。
P112 …「利益のことしか考えない会社の評価なんて、あてになるもんか」と開き直ってしまいましょう。リストラされたからといって、あなたという人間の価値が下がるわけではないということを、心に刻んでおいてください。
P113 …でもお互いに頼ったり頼られたり、支えたり支えられたりできるのが家族のよさ。ひとりで抱え込まず、家族に、あるいは恋人や友人に胸の内を打ち明け、支えてもらうことで、人は頑張れる。
P114 上智大学で哲学を教えていたアルフォンス・デーケン神父によれば、ドイツではユーモアを「にもかかわらず笑うこと」と定義しているそうです。つらくて惨めで死んだほうがマシだと思うようなときこそ、ジョークのひとつもひねり出し笑ってみる。すると、自分自身や自分が置かれている状況をフッと引いてみることができるようになり、心に余裕が生まれます。
P115 もし斎藤病院が戦災に遭わなければ、僕はろくでなしのボンボンのままだったでしょうね。
病院を再建すべく苦労したことで、精神科医としても人間としても、ちょっとはマシになれました。父の茂吉も、大正十三年に病院が火事で焼けたあと大変な苦労をして再建したんですが、人生の中で一番きつかったその時期に、歌人として最もいい作品を書いています。これは自分を鍛えるチャンスなんだと前向きに受け止めれば、どんな苦境も乗り越えられる。つらさや惨めさをバネにして飛躍することができる。人間は弱いようで強い生き物なんです。
P120 最近は何かにつけて、人間を「勝ち組」「負け組」に分類したがる風潮があるけれど、僕も実にナンセンスで愚かなことだと思います。
P121 人生は長いようで短い。「いつかは結婚したいし子供もほしいけど、今の快適な生活を変えたくない」と、深く考えないまま日々を送っているうちに、気がついたら子供の産めない年齢になっていた……ということは大いにあり得ます。
P129 家庭や恋人など大切な人が亡くなったとき、健康や仕事や財産を失ったとき、手痛い失恋をしたとき、尊敬していた人や自分自身に幻滅したとき、人間はさまざまに揺れ動きます。
P130 …怒るべきときに怒らないと、自尊心はさらに傷つきます。
P131 …人の心は傷つきやすく、癒えにくいものなんですから。
P136 心が揺らいでいるときは、相手への要求ばかりが多くなっていないかチェックしてみることも必要です。…あれこれ条件を並べたくなったら、「じゃあ、私はどうなの?」と自分自身に問いかけてみるといい。
P142 …もともとが赤の他人であるふたりの間には深い溝が横たわっているのに、自分が心の中で勝手に作ったルールを”他人”に押しつけるから不協和音が生じるのです。
P143 ただし、親しき仲でも言っていいことと悪いことがある。「○○さんはもう部長になったのに」といった他人との比較、容姿や学歴・収入など相手がコンプレックスを感じていること、過去の傷に触れるようなこと、相手の親きょうだいの悪口などはタブーです。
P145 人間というものは単純なもの。「当然」と思われていると、妻や夫のために何かをすることが苦痛になり、家族の絆もどんどん細くなってしまいます。逆に「ありがとう」と言われれば、もっともっとしてあげたくなるんですよ。
P151 …お姑さんのカウンセラーになったつもりで「それはつらかったてしょうねぇ」と相づちを打ちつつ聞いてあげれば「気にくわない」と思っていた嫁にさえ人は心を開いてしまうもの。
P152 …人並みの愛情とバランス感覚を持ち合わせた男であれば、どちらの味方もできなくて当然なんです。
P155 …私のまわりは、男に捨てられ、浮気されて泣かされる友達ばかり。
P166 …毎年、九月になると躁病が始まり、ふだんは「ごきげんよう」とやさしく挨拶する穏やかな父が、「貴美子が先に寝やがるから俺サマは蚊に刺された!」と暴言を吐くようになる。
…とほとんど二十四時間不眠不休でした。
P167 …一生の間にうつ病にかかる確率は、十~二十パーセントだと言われています。
P168 病気の引き金は、実にさまざま。身近な人の死、転勤、退職、失恋、仕事のトラブルなど、いかにもストレスがかかりそうなことだけではありません。結婚や昇進、子供の自立、大きな仕事が終わってホッとしたとき……そんな他人から見れば喜ばしい出来事がきっかけになることも多いんですよ。
P169 …できれば一定期間は会社を休んで仕事を完全に忘れたほうがいい。
うつ病になるのは真面目で責任感が強く完璧主義の人が多いため、仕事をしながらではこれが難しいんですね。
P172 …「振り向けば、そこにいてくれる」というのが適度な距離です。
P173 うつ病は、人に気をつかいながら頑張りすぎるぐらい頑張った人がなりやすい病気。
病気をきっかけに、…人の痛みも理解できるようになるんですから。
P181 「あのとき、ああしていれば」という思いに振り回されることほど、時間とエネルギーを無駄にし、自分を傷つけるものはないと思いますよ。
P184 言葉は薬にもなれば凶器にもなる
何気ないひと言が相手を勇気づけ、心を晴れ晴れとさせることもあれば、怒らせたり、落ち込ませたり、ときには一生消えない傷を与える凶器にもなる。
P187 誰にでも誇りにしている、劣等感を感じているものがあります。そのデリケートな部分に触れる発言は、親しみを込めた冗談でも、人を傷つけかねません。
P188 友達が自分の家族や恋人をけなすようなことを言っても、それを真に受け、一緒になって悪く言わないように、身内の悪口は、自分で言うのはいいけれど、人には言われたくない。それが心の綾というものですから。
P191 周囲が、いない人の悪口で盛り上がっていても、加わらないこと。
P192 …近所づきあいでは、そんな「お互いさま」という謙虚な姿勢を忘れないようにしてください。
P201 …もちろん、母親だけが悪いわけじゃない。父親の不在や権威の喪失、競争を強いる社会、「個」を大切にできない学校教育、人工物に囲まれた生活環境、あふれる刺激と情報、ゆとりも誇りも失ってしまった大人たち……さまざまな要因が複雑に絡み合って、子供たちを追い詰めているんだと思います。
P202 …しかし、親と子は血のつながりこそあれ、全く別の人間です。
P204 子どもの目は節穴ではありません。小学校高学年ぐらいになれば、両親がずるさも弱さもたっぷり持ち合わせたひとりの人間であることを、ちゃんと見抜いているものです。
…親は、立派である必要なんてないんです。苦労や失敗を重ねながら、なんとか家庭生活を維持し、昨日より少しでもマシな人間になろうと自分なりに頑張って生きていれば充分。その後ろ姿を見て、子供自身が「親のこういう面は自分も学ぼう。ここは似たくないから反面教師にしよう」などと判断していく。それこそが理想の親子像なのだと、僕(斎藤茂太)は考えています。
P206 いつも、伯父と会うと、伯父は私の目を見て「ごきげんよう」と挨拶してくれる。
私の父もその昔、精神科医であった。にもかかわらず、躁病になったり、うつ病になったりと、これまたややこしい。